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塗師屋包丁

7月21日(日)、木の仕事の会主催の漆工場見学・勉強会に参加して、京都の佐藤喜代松商店にお邪魔してきました。私にとっても、たいへん有意義で刺激的な催しでした。佐藤喜代松商店では、開発されたMR漆がどういうものか、同社の佐藤豊社長より漆のなやしとかくろめと言った精製方法から具体的に見学・説明して頂き理解することが出来ました。それは、何も怪しげな方法で手を加えたり、薬品を使ったりというものではなく、従来の精製方法や油や顔料の添加を、少し視点を変え工夫を加えたものでした。もちろんそれは、単なる素人の思いつきではなく、長年漆を扱い、漆をの事を熟知された上での発想であり工夫であると感じました。

会が終わる頃には、もう一度漆というものを勉強して、自分なりに取り組んでみようと考えていました。


塗師屋包丁画像
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漆をちゃんと扱おうと思えば、篦と刷毛は欠かせません。良質の専用の刷毛がなくては、ムラのない美しい塗りは無理だし、佐藤社長の所作を拝見していると篦は漆を扱うもっとも基本的な道具だと思いました。桶から漆を掬う、また余った漆を桶に戻す、漆を練ったり、顔料や溶剤を混ぜる、下地の段階で漆や漆錆を木地に付ける、こうした作業はすべて篦で行います。篦の使い方に習熟して初めて漆を無駄なくちゃんと扱えると感じました。また、漆を買い、保管するには、やはり桶が基本だと思いました。桶の漆を覗いて、その色を見て臭いを嗅ぐ、場合によっては篦で撹拌してその粘度を計る。佐藤社長は仕入れる漆の良し悪しを判断するのに、桶の紙の蓋を開けて、その色と臭いで瞬時にそれが判別できるようになったとおしゃっていました。もちろん何度も失敗を繰り返して長い年月をかけた末の事だそうです。今からそうしたスキルを身につけるのは無理にしても、漆を扱うなら、その度に桶の蓋を開け、撹拌し、その粘度や色、艶、臭いを感じ、そこから少しでもその漆の性質を判断するような訓練をしておいても良いと思います。チューブでは、そのあたりの事は難しいでしょう。それに余った漆を戻すことも出来ません。

篦は、桧で作るものとばかり思っていましたが、佐藤喜代松さんでお聞きすると、カエデのものも粘りと弾力があって良いとのこと。また帰って調べるとマユミのものはさらに粘りがあって、極薄に先を加工出来てさらに使い勝手が良さそう。それで、手持ちのメープルで篦を作ってみました。目の詰んで性の良さそうな材を選び、鉋で厚みを出します。先端の加工は普段使っている切出で行いました。それなりに形にはなりますが、メープルなどの固い材で篦の先を一直線にスパッと加工するのは難しい。私の愛用の切出は、後の画像のようなものですが、普通の切出にくらべるとかなりゴツク出来ていると思います。刃渡りの中央付近をノギスで実測すると、3.90ミリほどありました。それでも、2寸ほどのメープルを削ると、特に先端の部分が微妙にしなるのか、きれいに薄く直線的に仕上がりません。篦と漆刷毛の加工に特化した塗師屋包丁(小刀)が必要なのかと思いました。

佐藤喜代松商店さんで、廃業した塗師のものと言う中古の漆刷毛を二つ購入しました。これらも、やがて毛先が痛んだら切り出して仕込み直さなくてはなりません。佐藤喜代松商店さんで、その方法を書いた手引きを頂いてきましたが、一度毛先を板と一緒に全部落として、あらためて毛を挟む桧の板ごと一気に削り出さなくてはならないようです。この作業を切出で代用して行うのは、やはり無理そうです。


大阪、日本橋の清重商店や台新などの、いつも道具を買ったり定点観測している道具屋を廻りましたが、どこも塗師屋包丁は置いてありませんでした。仕方なくネットで通販のサイトも含めて検索してみましたが、やはり特殊なものなのか、あまり数もなくしかも高価です。いつも買っていた漆屋が、サイズの種類も豊富で、しかも価格も一番安かったので、これまでの信頼感もあってそこで買う事にしました。

サイズは刃渡り寸法で5寸から8寸まであります。他のサイトを見ても6寸あたりが標準のようです。これで¥11,550(税込)でした。一番安かったという事もあって、正直言って使えれば良いというくらいに思っていました。

送られてきた塗師屋包丁は上の画像のようなものです。朴の鞘には播州三木打刃物と書かれた伝統的工芸品のシールが貼られています。刃渡り寸法は文字通り180ミリ(6寸)、刃の幅は先から元までほぼ 30ミリ、刃の厚みは元で5.2ミリ、先でも 4.2ミリありました。たいへん重厚で立派な作りです。

ゴツサを見てもらうため、普段使っている切出、繰小刀、それに150ミリの定規と並べてみました。

切出、塗師屋包丁、繰小刀
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研いでみると、地金の部分が錬鉄と言われる高級な鉋に使われる不純物の混じった古い鉄が使われています。鋼も白紙が使われているのでしょうか、長い刃渡りのわりには研ぎやすく驚きました。刻まれた銘から、三木の伝統工芸士・Nさんの作と思われますが、たいへん立派な良い刃物で私のようなものにはもったいないくらいです。

塗師屋包丁拡大画像
拡大(1000 X 400px 27.3KB)

さっそくメープルを使ってあらためて篦を作ってみました。鉋で厚み出しをして、この包丁で篦先を削り出すのですが、切出と違って材に負けて刃がビビったり、しなったりせずにスカッと直線的に仕上がります。この特殊な刃物の厚みがあり直線的な特異な形状の意味がわかった気がしました。


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