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ミズメ

先日、6月17日の広葉樹の森・探索会で訪れた朽木村三国峠で、ブナ、トチの他に比較的多く見られたのがカエデとミズメでした。

ミズメの樹幹 ミズメの樹幹は桜に似る

山でこの木を見かけて、同行の人にこの木は何の木と思うと尋ねると、たいていの人は桜と答えます。上の右側の画像をクリックして拡大してご覧頂くとわかりますが、その樹幹・樹皮の様子は桜そっくりです。葉も遠目には見分けがつきにくいのですが、手にすると鋸歯と言われるギザギザが二重になっており、それで区別出来ます。判別法として良く取り上げられるのは、樹皮の刺激臭ですが、当然ながらむやみに枝を折ったり樹皮を矧いだりするのは好ましいことではありません。山で桜のような幹の木を見たら、ミズメだと考えてまず間違いはありません。

木工屋にとって、ミズメは比較的なじみの深い樹種です。もちろん山の木と言うより材としてです。ミズメを含むカバノキ科の材は、材木屋や木工屋の世界では一般にサクラと呼ばれています。逆に、本当のサクラ材を示す場合は、ヤマザクラと特定します。ちなみに桜の仲間は分類上ではバラ科に属しており、カバノキ科とは樹種としては別の系統のものです。観賞用に広く植えられているソメイヨシノは、観賞用に特化して改良が進められたため寿命が比較的短く、大径・高木になりにくく材として出回る事はないようです。ヤマザクラは、街中でも時々ソメイヨシノに混ざって植えられているのを見る事があります。比較的樹幹が真っ直ぐに伸び、開花と同時に青い葉が出るのですぐに見分けられます。花もソメイヨシノに比べ大人しい白で、むしろ上品でしとやかな風情があって私は好きです。

サクラと総称されて流通しているカバノキ科の材でも、樹種を特定されて取引されているものとしては、マカバミズメアサダシュリなどがあり、残りは雑カバとまとめられてしまいます。なかでも、ミズメは材としてもヤマザクラに近いように思います。白太も含めた材全体が少し黒みがかったピンク色をしています。樹皮は特有の刺激臭がありますが、樹皮を矧ぎ製材された材にはそのようなものはなく、たとえば鉋をかけるとサクラやカバの仲間特有の甘い芳香のようなものが漂ってたいへん心地好い。シュリも色だけで見ると、一番ヤマザクラに似ている気がしますが、材が軽くヤマザクラやカバの仲間のような緻密さや粘り強さに欠るような気がします。

マカバの白太などは、うまく製材・乾燥されたものは逆に真っ白で木表使いで、うまく赤身をはずして使えばとても上品な良い仕上がりになります。白太と言っても普通の環孔材のそれと違って、強度的には問題はありません。こうなると、ヤマザクラの代用と言うよりそれ自体として使いたいものです。そう言えば昔ある額縁屋さんで、額縁用の材で一番よいのはマカバの白太だと聞いた覚えがあります。材が緻密で細かい加工が効き、なおかつ着色が容易だと言うのがその理由でした。

購入したミズメの敷居材の山 購入したミズメの敷居材のラベル

少し前に、ある材木屋からミズメの敷居材をまとめて購入しました。先代が購入してストックされていたものらしいのですが、いわゆる丈物(10尺・約3メートル強の材)であったため、売れずに残ってしまっていたとの事でした。張られた伝票を見ると人工乾燥完了が56.10.12とあり、その時の含水率が11%となっています。つまり一端人工乾燥で11%まで落として、その後25年以上が経過した材という事です。ちょうどある仕事の材料として使えそうなのでまとめて買いました。何に使う、使ったかはまた機会をあらためます。


私は、サクラと称される材をそんなにたくさん使ってきたわけではありません。したがって以上書いてきた事も、とんでもない勘違いしているかもしれません。それに全く違う感想をお持ちの人もいると思います。よろしければご指摘下さい。

シュリザクラ(シウリザクラ)は、バラ科に属する、樹種としてもサクラの仲間でした。その意味では、材が似ているのも当然かもしれません。(7月8日、追記)


もう業界の常識のようになっていますが、カバノキ科の材を総称してサクラと呼ぶのはやはり問題があります。そんなことが一般の人に通じるわけがありません。サクラと言えば、ソメイヨシノかあるいはヤマザクラを連想するのが当然の事です。家具木工、とりわけ我々のような工房家具・小規模木工の場合は、さすがにそんな曖昧でインチキな材種名を使う事は少ないようです。ちゃんと、カバ、もしくはミズメなどと材料表示している場合が多いようです。

建築の木工事図面の材料指定など、もうムチャクチャです。ツガと言えばベイツガ、ヒバと言えばベイヒバと言った輸入代用品を指すのはもう常識ですし、この例で言うと敷居にサクラとあれば、カバノキ科の材が使われます。カバが使われるならまだ良い方で、多くの場合ニャトーという南洋材が南洋桜と称して使われています。似て非なるという言葉がありますが、ヤマザクラとニャトーは似たところはありません。ニャトーは鋸をあてるだけで、くしゃみが止まらないような強烈な刺激臭を発します。普通、材木は比重に応じて強度や粘りが増していくのですが、この木は重いだけで強度も粘りもありません。さらに、ある材木屋にこの話をすると、ニャトーが使われているなら、まだ良い方で最近では云々と話が続くのですが、もう止めておきます。

これは、やはり豚肉に牛の血をかけて牛挽肉と称して売るのと同じ詐欺であり、商標違反です。普通に考えればそうなります。それをおかしいとも感じなくなり、なんだかサクラといえばカバの事と了解するのが業界人だと思うのは、かなりやばい状態に意識が堕落しているのだと思います。

2007年7月6日

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