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パイオニア PAX-12A

パイオニア PAX-12A パイオニア PAX-12A 背面

パイオニア PAX-12Aの仕様

長岡鉄男さんの『日本オーディオ史 1950〜82』によると、このPAX-12Aは、1952年の発売で、パイオニア(福音電気)の記念すべき最初の同軸型ユニットだそうです。50年以上前のユニットという事になります。

パイオニア PAX-12A 側面

30cmのウーファに、9cm(振動板の口径で6cm)のコーン型のツイータを軸上に埋め込んだユニットです。フレームは、厚い鉄板のプレスで、大きな把手が二つついています。ウーファのコーン紙はコラゲーションはなく、比較的深く絞られています。エッジは固いフィクスド・エッジ。マグネットは、4つの円筒形のアルニコ・マグネットをポールピースに対して同心円状に配してあります。マグネットには、ダイヤマークが刻印されています。同じ頃のコーラルのウーファにも同じような構成のものがあります。今なら、大きなドーナツ状のフェライト・マグネットを使うのでしょうが、アルニコ磁石の場合、成型・着磁が難しいのか、高価過ぎて無理だったのか、良く分かりません。

パイオニア PAX-12Aのツイータ パイオニア PAX-12A ネットワークとマグネット部分

角形のケースのオイルコンデンサーと鉄心入りのコイルで、ツイータのローカットフィルターが構成されています。このオイルコンデンサーは、私の簡易型の容量計ではOL・オーバーレンジと表示され、容量の測定は出来ませんでした。入手したものからは取り外されていましたが、外付けのアッテネーター用にリード線が引き出されています。

仕様、その他全く不明です。最低共振周波数は実測してみました。発振器と交流電圧計、それに600〜1KΩ程度の抵抗があれば、簡単に計測できます。発振器の出力と交流電圧計をユニットの端子に接続します。その際、発振器の出力インピーダンスと合わせるために、直列に600Ω程度の抵抗を入れておきます。ウーファであれば、発振器の周波数を100Hz程度から下にスイープさせていきます。電圧計の針が大きく振れるところがそのユニットの最低共振周波数になります。

このユニットは、中古ペアで手にいれたのですが、何かの識別の目的か、コーンに赤と白の丸いマークが付けられています。白いマークのついた方が75Hz、赤いマークのついたものが62Hzでした。いくら古いユニットにしても随分高い周波数だと思います。16cmのフルレンジなみです。手元に資料のあるもので、当時のユニットを見ても三菱のPW-125でも40Hzです。元の設計値が分かりませんが、このユニットはエッジの補修後があり、白いマークのユニットが補修後が大きいので、あるいはその影響かも知れません。どの道、50年前のユニットに初期の性能を求めても仕方ありません。長い期間お蔵入り状態で、エッジが硬化している可能性もありますので、暫く鳴らし込んでから再度測定してみたいと思います。


入手したこのユニットは、エッジに何カ所か補修の跡がある事を除いて、外観上はとても良い状態でした。コーン紙の焼けもなく腰の抜けたような状態でもありません。全体に質実でしっかりした作りで、塗装やメッキの剥がれや錆の浮きもありません。50年前に、こんなものが民生用に使われたとも考えにくいので、業務用のユニットだったのでしょう。戦争に負けてから、わずか7年後の製品となるわけですが、生活必需品でも産業目的でもないもので、当時からこんな立派でしっかりした工業製品が作られていたと思うと驚きです。

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聴いてみて

ツイータのアッテネーターが取り外されていましたので、最初スルーしてフィルター直結の状態で聴いたみました。さすがに、シャリシャリと耳障りな音に聞こえましたので、手持ちの抵抗値のカット・アンド・トライで、ツイータに直列に5.1Ω、並列に8.2Ωを入れて聴いています。ツイータを16Ω換算で、5.7dB(電圧比・0.51)ほど減衰させている計算になります。合成インピーダンスで10.5Ωになりますが当座仕方ありません。ソースによっては、絞りすぎと感じることもありますが、当面こんなものかとも思います。暇が出来たら多接点のロータリースイッチと抵抗で本式のアッテネーターを作ってみたいと思います。

やはり、少しツイータを絞りすぎて寂しい気がしました。抵抗値を直列に5.1Ω、並列に51Ωに変更しました。これですと、3.0dBの減衰(電圧比・0.70)で、合成インピーダンスも17.3Ωになります。(1月11日)

アッテネーター回路図
16Ω・アッテネーター抵抗値
R1・Ω R2・Ω
-1dB 1.74 131.13
-2dB 3.29 61.79
-3dB 4.67 38.78
-4dB 5.90 27.36
-5dB 7.00 20.56
-6dB 8.85 12.92

ちなみに、ツイータのボイスコイル・インピーダンスを16Ωとしたときの、アッテネーターの抵抗値の理論値を表にしておきます。実装では、これに近い値の3W程度の抵抗を選べば問題ないでしょう。SUNStar Suite 7表計算で作ったファイルを置いておきます。自分用のファイルで洗練されたものでもありませんが、自由にお使い下さい。セル・A2にインピーダンスを入力すれば、それに応じた抵抗の理論値が出ます。減衰値も同様に任意の値を入れてください。元のファイルには、16Ωの-1dB〜-18dBの数値が入っています。

Start SuiteOpen Office.org用ファイル atn_R.sxc (7KB)
M$ Excel用ファイル atn_R.xls (12KB)

音は、たいへん気に入りました。

30cmの同軸ユニットという構成にしては、聴感上のレンジは広くありません。私は、30代の頃、既に15KHz以上の音が聴えませんでした。自分で実験してみた結果ですからどうしようもありません。今は恐ろしくて、そんな実験をしてみる気もありません。そんな駄耳でも、このユニットを聴いていて、もう少し音の艶とかきらびやかさが欲しいと感じる時があります。それでも、アーメリンクは、艶やかに優しい声で歌います。低い音も、特に驚くような迫力があるわけでもありません。しかし、スカを踏んだような腑抜けた音や、ボアボアした低音もどきのいやな音は出しません。

音が前に飛び出すという感じでもありません。でも、バッフルの廻りにへばり付いた死んだような音ではありません。音像も小さくきれいに結ぶという感じもありません。しかし、アーメリンクはもちろん、オッターもMISIAも、大きな口を開けて、喰らい付いてくるような妄想にかられる事もありません。

つまり、どこと言って良い所を挙げるのが難しい音です。逆に言うと、いやな音、私の嫌いな音を出さない、妙な存在感を主張しないユニットだと思います。もうこれで、ジャンクなユニット遊びも打ち止めかと感じさせられます。


このユニットは、昨年末にネット・オークションで手にいれました。私は自営業ですから、当然ボーナスもないし、お年玉をもらえるわけでもありません。年末、馬車馬のように働いた自分へのボーナスのつもりで札を入れておいたら、他に誰も入札する人がなく開始価格(ペアで、\10,000)で買えました。オーディオ・マニアというのは、若いお姉さんたち以上にブランド志向・舶来志向のようです。古いこうしたスピーカーユニットに関しても、米国や英国の有名ブランドはもちろん、ドイツやオランダのブランドのラジオの付属品のようなペラペラの安っぽい物にも、驚くような値が付きますが、こうした立派な愛すべき古い国産品は見向きもされないようです。

私は、現代のハイエンドと言われるオーディオ装置や、名機とされる舶来のビンテージな装置を手にしたことはありません。おそらくここで云々するのとはまた全く別の次元の世界であろう事は、素直に想像できます。しかし、今から50以上前、まだ戦争で破壊されてから10年も経たない頃、まだ、Made in Japanや、Made in Occupied Japanが、安物・粗悪品と蔑まされていた頃、私たちの先輩の職人さんたちがこんな立派な工業製品を作っていた事を誇りに思います。これを組み立てた女工さんたち、メッキや塗装の下請の町工場の職人、細かい仕様に頭を悩ませた製紙工場の職人、コンデンサーやコイルの部品工場の現場、設計したエンジニア、50年以上も前の事ですから、そうした人たちの中には、もう亡くなられた方もいるでしょう。そんな事に思いを寄せながら、やはり50年近く前のラジオ用のライブ録音を、自分で組んだアンプで深夜静かにモノラル再生して聴くと言うのも、趣味としての再生音楽の楽しみのひとつだと思います。

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